大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長野地方裁判所諏訪支部 昭和50年(ヨ)10号 決定

申請人 東道子

〈ほか三八名〉

右申請人等代理人弁護士 高野尾三男

同 牧野孝安

被申請人 三栄工業株式会社

右代表者清算人 伊東八三

主文

申請人等がいずれも被申請人の従業員たる地位にあることを仮に定める。

被申請人は、申請人等に対し、別紙金額欄記載の金員ならびに昭和五〇年五月から本案判決確定に至るまでの間、毎月、末日限り、右金員の六割の割合による金員を仮に支払え。

理由

申請の趣旨・理由は別紙のとおり

当裁判所の判断

(一)  本件疎明によれば次の事実が認められる。

被申請人は、申請外信州精器株式会社の下請として、精密部品の製造、加工、組立等を行ない、従業員八〇名前後を擁する株式会社であるが、実体は同社代表者申請外伊東八三の個人企業というべきものであり、申請人等はいずれも被申請人会社の従業員であって、申請外全国一般労働組合長野地方本部三栄工業分会(以下申請外組合という)に属し、被申請人からの賃金によって生活の全部もしくは重要な部分を支えていたものであるが、被申請人及び申請外伊東は申請人等が昭和四九年四月右組合を結成したことから、これを極度に嫌悪し、種々露骨かつ不当な手段で右組合の潰滅を図り、その為、同年八月八日長野地方労働委員会から不当労働行為等を差し止めるべく救済命令が発せられたが、被申請人はこれを真摯に履行しようとする意思がなく、その後も組合潰滅の意図を捨てず、同社塩尻(広丘)工場を有限会社広丘工業と改組し、申請人等が働いていた主力工場である松本工場から、機械設備類を右広丘工業へ移転し、非組合員を同工場へ振り向け、前記信州精器から同工場への受注を増やし、松本工場への受注を減ずるなどしたうえ、三栄工業労働組合なるものを作り、再び松本工場に機械設備と共に右三栄工業労組員を戻すなどして組合潰滅を図ったが、結局失敗に帰し、却って右三栄工業労組員等も申請外組合に加入し、組合が一層強化される結果となり、右組合と被申請人との対立は激化した。そのため申請外伊東は会社経営に嫌気がさし、被申請人は突然昭和五〇年二月二一日、同年三月二六日をもって解散する旨の決議をし、よって同年三月二五日付で、申請人等を解雇する旨の意思表示をし、申請人等に通知された。その後被申請人は清算手続に入り、前記信州精器から借り受けていた作業設備機械類を同社に返還し、松本工場は閉鎖された状態である。

しかし、被申請人は申請外伊東の個人企業に等しいので、右解散決議は勿論のこと、今後の同企業の再開あるいは継続についても同申請外人の個人的意思に委ねられている面が強く、しかもその経営の規模や形態等に照らして、企業の再開継続は容易であるうえ、前記広丘工業は依然存続しており、諏訪市には本社建物も残されている状態であるから、これらを利用して企業を再開することも十分考えられるところである。

被申請人の経営状態をみると、昭和四九年四月組合が結成されるまでは、堅実順調であって、組合との対立が生じて以来欠損を生ずるようになったが、その原因については、最近の景気後退による影響も勿論ないではないが、被申請人あるいは申請外伊東の組合潰滅のためには経営利益を無視したような恣意的な諸行為とこれによって惹き起された職場環境の劣悪化、従業員の精神的動揺、親会社からの信用失墜による発注減などによったものと認められ、被申請人の経済的基盤は今なお強固であり、生活能力、技術面ともに勝れたものを有しており、企業を廃止しなければならない経済的事情は全くない。

(二)  以上認定のとおり、本件解散は、利潤追求という企業経済目的から見て企業を廃止しなければならない事情がなく、企業の実体は個人企業であり、その廃止、再開継続も容易になされ得る状況にあり、解散の動機目的が専ら組合潰滅にあることが明らかであるから、右解散は現行法秩序の下においては、著しく不正義な無効なものと言うべく、仮に無効でないとしても、これを理由とする本件解雇は解雇権の濫用であって許されないものと解される。

そして申請人等はいずれも本件解雇によりそれぞれ重要な生活の資を失いその生活に困窮していることが認められる。

(三)  よって諸般の事情を勘案し、申請人等に保証を立てさせないで主文のとおり決定する。

(裁判官 福田皓一)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例